AIの急速な発展により、教育の現場でも大きな変化が起きています。
特に高等教育では、AIが学生の学習に与える影響が注目されています。
そして、その課題解決能力についても多くの議論があります。
今回は、英国インペリアル・カレッジの工学教授による興味深い実験を紹介します。
この実験は、最新のAIが大学レベルの工学課題をどの程度解決できるかを検証したものです。
また、その結果が教育にどのような影響を与えるかも探っています。
実験の背景と目的
多くの教育者はAIの発展に懸念を抱いています。
そして、この教授は憶測ではなく、実際のデータに基づいた議論を望みました。
「AIがエッセイを書くのは得意だと知っています。でも、複雑な工学課題はどうでしょう?」と教授は問いかけます。
「特にプログラミング、高度な数学、パターン認識、分析が必要な課題でのAIの性能が知りたかったのです。」
そこで教授は自身の授業で出題している実際の課題をAIに解かせました。
その課題は、凸最適化を使った分類手法の構築に関する2ヶ月のプロジェクトです。
sklearn等の既製ライブラリは使用禁止という条件もついています。
核心的な問いはこうです:学生がAIの回答をそのままコピペするだけで、良い成績を取れるのか?
実験方法
教授は次のような方法で実験を行いました。
- 主要なAIモデル(Meta AI、Claude、ChatGPT、Gemini)の無料版を使用する
- AIに対して一切の追加サポートをしない
- 生成された回答をそのまま評価する
- 教授の助手(TA)に、AIが生成した回答だと知らせずに採点してもらう
このアプローチにより、AIの回答が実際の授業でどう評価されるかを公平に測定できます。
人間の先入観なく、純粋に成果物だけで判断されるのです。
驚きの結果
結果は教授の予想を超えるものでした。
AI間でパフォーマンスに大きな差が出たのです。
Geminiが最高得点を獲得しました。
ChatGPTも合格ラインを超えています。
一方、MetaとClaudeは課題をクリアできませんでした。
教授は「すべてのAIが平均的な成績を取ると予想していました。
これほど大きな差が出たことに驚きました」と語っています。
なお、この実験では無料版のAIモデルを使用しています。
Geminiは最高モデルが無料で利用できるため、その点が優位に働いた可能性もあります。
有料版ではまた違う結果になったかもしれません。
教育への影響
この実験結果は、高等教育への大きな疑問を投げかけます。
特に技術分野での評価方法に再考を促しています。
課題が「学生の理解を評価するための手段」であるなら、AIがその課題を解決できる場合、私たちは何を評価しているのでしょうか?
この問いに、教育者は向き合う必要があります。
考えられる対応策としては、次のようなものがあります。
- AIを前提とした新しい課題設計(AI活用型の課題)
- 口頭試験の重視
- 試験のみによる評価
- AIの使い方自体を教える新たなカリキュラム
これらの選択肢にはそれぞれメリットとデメリットがあります。
どの方法が最適かは、教育目標や学生のニーズによって異なるでしょう。
専門家の見解
実験に関する議論では、さまざまな意見が寄せられました。
あるエンジニアは「AIは複雑な問題を理解する助けになります。ただ、それは理解の代替ではなく、理解を深めるためのツールです」と主張しています。
別の教育者は「学期末に学生にAI利用の実態を調査すべきです」と提案しました。
この実験は、実は教室で毎日自然に行われているのかもしれません。
特に興味深いのは、計算科学の専門家からの指摘です。
かつて計算機が登場した時、『電卓を常に持ち歩けないから、手計算を学ぶ必要がある』と言われました。 しかし今や誰もが計算機を持ち歩いています。 AIでも同じことが起きるのでしょうか?
AIとの共存を目指して
この実験が教えてくれるのは、AIが単なる「チート」のツールではないということです。
それは学習と教育の方法そのものを変える可能性を秘めています。
将来の教育では、AIの使い方を学ぶことが基本スキルになるかもしれません。
その場合、重要なのは「AIがどれだけ課題を解けるか」ではありません。
むしろ「学生がAIをどう活用して学びを深めるか」が焦点となるでしょう。
学生にとっても、AIに全てを任せるのは得策ではありません。
AIとの協業を通じて専門知識を深める方法を学ぶことが重要です。
理解なき「コピペ」で課題を終わらせる学生と、AIを活用しつつ深い理解を得る学生との間には、将来大きな差が生まれるでしょう。
まとめ
AIの発展に伴い、教育の形も変わっていきます。
課題や試験の方法を見直すだけでは不十分かもしれません。
私たちが「学ぶ」とは何かという根本を考え直す時期に来ています。
この実験は、AIが教育にもたらすチャレンジとチャンスの両面を明らかにしました。
教育者として、技術の進化に抵抗するのではなく、どう活用し共存していくかを考えることが大切です。