日本語OCRの未来:LLMの時代における専用エンジンの課題

日本語OCRの未来:LLMの時代における専用エンジンの課題 AI

OCR(光学文字認識)技術は、大きな転換点を迎えています。
特に日本語OCRの分野では、従来の専用エンジンとLLM(大規模言語モデル)の性能差が顕著になってきました。

本記事では、実例を交えながら、OCR技術の現状と今後の展望について考察します。

専用OCRエンジンvsマルチモーダルLLM

実例による比較

GitHub - kotaro-kinoshita/yomitoku: Yomitoku is an AI-powered document image analysis package designed specifically for the Japanese language.
Yomitoku is an AI-powered document image analysis package designed specifically for the Japanese language. - kotaro-kinoshita/yomitoku

日本語特化型OCRエンジン「YomiToku」には、以下の特徴があります。

  • 日本語に特化した4種類の専用モデル
  • 7000文字以上の日本語文字認識
  • 縦書きなど日本語特有のレイアウト構造解析
  • 多様な出力形式(HTML、Markdown、JSON、CSV)

しかし、Google社の最新LLM「Gemini」との比較テストでは、興味深い結果が得られました。
実際の居酒屋メニューの画像を両システムで読み取った結果を見てみましょう。

メニューは以下の画面を利用しています。
https://www.canva.com/ja_jp/templates/EAFn3LySBRQ/

YomiTokuの出力結果(一部抜粋)

といあえず
:今ャス
枝豆
写真集き王子
きゅうり一本漬け
キムチ
*、チャンジャ

Geminiの出力結果(一部抜粋)

とりあえず
冷奴 300
枝豆 300
厚焼き玉子 300
きゅラリー本漬け 300
キムチ 380
チャンジャ 480

この結果から、以下のような差異が明確になりました。

YomiTokuの課題

  • 「冷奴」を「今ャス」と誤認識
  • 「厚焼き玉子」を「写真集き王子」と大幅な誤認識
  • 価格の構造化が不完全
  • 不要なマークアップや記号の混入

Geminiの特長

  • ほぼ完璧な文字認識精度
  • メニュー項目と価格の適切な紐付け
  • カテゴリー別の正確な構造化
  • クリーンな出力形式

Geminiを使用した実際のコード

以下は、Geminiを使用して画像認識を行う実際のPythonコードになります。

# 必要なライブラリのインポート
import google.generativeai as genai
import PIL.Image
from dotenv import load_dotenv, find_dotenv

_ = load_dotenv(find_dotenv())

# APIキーの設定
genai.configure()

# モデルの設定
model = genai.GenerativeModel('gemini-2.0-flash-exp')

# 画像の読み込みと分析の例
def analyze_image(image_path, prompt):
    # 画像の読み込み
    img = PIL.Image.open(image_path)
    # 画像の分析
    response = model.generate_content([img, prompt])
    return response.text

# 使用例
if __name__ == "__main__":
    # 画像ファイルのパスと分析したい内容のプロンプトを指定
    image_path = "menu.jpg"
    prompt = "画像からテキストを抽出してください。"
    result = analyze_image(image_path, prompt)
    print(result)

このコードを使用することで、簡単に高精度なOCR処理を実現できます。
なお、.envファイルが必要となります。

GOOGLE_API_KEY="取得したAPIキー"

コスト面での圧倒的な差

コスト面でも、LLMは圧倒的な優位性を持っています。
Geminiの場合、100万トークン(約1000回答)あたりわずか15円という破格の価格設定です。

一方、専用エンジンは商用ライセンスを必要とします。
このコスト差は、ビジネス展開において大きな課題となっています。

今後の展望

専用OCRエンジンの課題

技術面での課題

  • LLMの急速な進化に追いつけない
  • マルチモーダル処理における総合的な理解力の差
  • 開発・メンテナンスコストの負担

ビジネス面での課題

  • 破格の価格設定のLLMとの競争が困難
  • 単機能サービスの価値提案の難しさ
  • 市場ニーズとのミスマッチ

今後の方向性

専用OCRエンジンには、以下のような方向性が考えられます。

1.特定用途への完全特化

  • 帳票処理など、特定業務向けの機能提供
  • 法的要件や規制対応などの特殊ニーズへの対応

2.LLMとの協調

  • LLMのバックエンド処理としての機能提供
  • 前処理や後処理での特化機能の提供

3.オープンソース化

  • コミュニティベースでの改善・発展
  • 特定用途向けのカスタマイズ基盤としての提供

まとめ

OCR技術の分野では、専用エンジンとLLMの性能差は明確になっています。
特に日本語OCRの分野では、主要なLLMが高い精度を示しています。
そして、破格の価格設定で提供されています。

この状況下で、専用エンジンはLLMとの直接競争を避けるべきです。
その代わりに、特定用途への特化や、LLMを補完する役割を模索する必要があります。

技術の進化は日進月歩で続いています。
特にAI・LLM分野での進歩は目覚ましいものがあります。
OCR技術の提供者は、この現実を直視し、新たな方向性を見出すことが求められています。

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