完璧なプロンプトを求めて、テンプレートを集めたり、書き方のコツを探したりしていませんか?
実は、その努力の向け先が間違っているかもしれません。
最近話題になったRedditの投稿で、興味深い視点が提示されました。
プロンプトエンジニアリングで本当に重要なのは、プロンプトそのものではない。
その前段階にある「コンテキスト」の構築だという内容です。
この考え方は、私たちがAIツールを使う方法を根本から変える可能性があります。
プロンプトの限界
「詳細に書けば良い結果が得られる」
この考えに基づいて、長大なプロンプトを書いた経験はありませんか?
背景説明、条件設定、出力形式の指定。
すべてを一つのプロンプトに詰め込もうとする。
結局、何が重要なのか分からなくなってしまいます。
ある企業での実例が示唆的です。
同じ提案書作成タスクに取り組む2人の社員がいました。
一人は3時間かけて完璧なプロンプトを作成。
もう一人はプロジェクトに12個のコンテキストファイルを用意しました。
そして「実装セクションを書いて」とだけ入力。
結果は後者の圧勝でした。
なぜこんなことが起きるのでしょうか。
ファイルがプロンプトに勝る理由
ChatGPTやClaudeには「プロジェクト」という機能があります。
複数のファイルをアップロードできる仕組みです。
AIはそれらを記憶した状態で対話できます。
この機能を使うと、以下のような構成が可能になります。
基本となる5つのファイル
- 自己紹介ファイル – あなたの役割、経験、目標、制約条件
- プロジェクト概要 – 何を達成したいか、成功の基準は何か
- 背景情報 – 必要な知識、ドメイン固有の情報
- スタイルガイド – 文章の書き方、トーン、フォーマット
- 進捗記録 – これまでの成果と次のステップ
これらのファイルを用意すれば、状況が変わります。
「これについてどう思う?」「次は何をすべき?」といったシンプルな質問でも、的確な回答が返ってくるのです。
実践例:カスタマーサポートの変革
従来の方法を振り返ってみましょう。
怒っているお客様へのメール返信を書く際、こんなプロンプトを書いていました。
配送遅延について怒っているお客様に、謝罪しつつもプロフェッショナルな返信を書いてください。 当社のポリシーを説明し、解決策を提示してください
でも、これでは汎用的な返答しか得られません。
新しいアプローチは違います。
プロジェクトに以下のファイルを準備するのです。
- 会社情報(ポリシー、価値観、サービス内容)
- コミュニケーションガイドライン
- エスカレーション手順
- 顧客履歴の管理方法
そして「このメールに返信を」と入力するだけ。その顧客の過去の購入履歴も考慮されます。
あなたの会社特有の対応方針も踏まえた返信が生成されるのです。
ファイル管理の実践的アプローチ
「でも、たくさんファイルを作るのは大変そう」
そう思うかもしれません。
確かに最初は時間がかかります。
しかし、一度作成したファイルは何度でも使い回せるのです。
実際の運用では、こんな変化が起きます。
1週目:ファイル作成に時間がかかる
2週目:既存ファイルの再利用で作業が速くなる
3週目:AIの回答精度が驚くほど向上
2ヶ月後:もう以前の方法には戻れない
プロジェクトを重ねるごとに、既存ファイルの再利用率が上がります。
10個目のプロジェクトでは60%のファイルを使い回せる。
20個目では80%まで上がるでしょう。
バージョン管理の重要性
ファイルは常に進化させていくものです。
approach.mdをapproach_v2.mdへ。
そしてapproach_v3.mdへと更新していく。
これは無駄ではありません。
v1で試したアイデアがv2では不要になる。
でも、v5で再び必要になることがあります。
思考の過程を記録として残す。
これにより、より良い判断ができるようになるのです。
Gitのようなバージョン管理システムを使えば、さらに効率的です。
タグ付けやスクリプトによる自動化も検討する価値があるでしょう。
XMLタグかMarkdownか
構造化の方法について、議論があります。
XMLタグを使った厳密な構造化を好む人もいます。
一方で、シンプルなMarkdownで十分という人もいる。
重要なのは、AIモデルの特性に合わせて選ぶことです。
最新のモデルでは、興味深い傾向が見られます。
過度に構造化されたXMLよりも、自然なMarkdownの方が良い結果を生む。
そんなケースも報告されているのです。
選択的なコンテキスト注入
すべてのファイルを常に使う必要はありません。
タスクに応じて、関連するファイルだけを選択できます。
これがファイルベースアプローチの大きな利点です。
プロンプトにすべてを詰め込むとどうなるか。
AIは関係ない情報にも注意を払ってしまいます。
ファイルを分けることで変わります。
必要な情報だけを効率的に提供できるのです。
いつシンプルなプロンプトで十分か
もちろん、すべてのタスクでファイルが必要なわけではありません。
「フランスの首都は?」
「Pythonで日付をフォーマットする方法は?」
こういった単純な質問には、シンプルなプロンプトで十分です。
ファイルベースのアプローチが真価を発揮するのは、別の場面です。
繰り返し行う作業。
精度が求められるタスク。
こういった場面で力を発揮します。
実装を始めるには
まず最初のファイルを作りましょう。
自己紹介ファイルに3行書くだけでいいんです。
次に現在のプロジェクトについて簡単に説明する。
そんなファイルを作ってみてください。
これだけでも変化を実感できるはずです。
AIとの対話の質が変わることに気づくでしょう。
大切なのは、完璧を求めないこと。
少しずつファイルを充実させていけばいい。
使いながら必要なものを追加する。
不要なものは削除する。
この繰り返しで、あなただけのコンテキスト環境が構築されていきます。
まとめ
プロンプトエンジニアリングの本質は、プロンプトそのものではありません。
その土台となるコンテキストの構築にあります。
ファイルとして知識を外部化する。
これにより思考が整理されます。
そして、AIとの対話が格段に効率的になるのです。
一度作成したファイルは資産として蓄積されます。
プロジェクトを重ねるごとに価値が増していく。
「完璧なプロンプトを書かなければ」というプレッシャーから解放される。
そして、本来の仕事に集中できるようになります。
コンテキストを構築する。
その上でプロンプトを使う。
この順序を理解することが、AIツールを真に活用する鍵となるでしょう。