先日、海外の開発者コミュニティで興味深い事例が話題になりました。
14年間解決できなかった技術課題を、最新のAIモデルが1日で解決したという報告です。
本記事では、この事例を紹介します。
そして、AIによるレガシーコード変換の可能性について考察していきます。
14年間抱え続けた技術的負債
あるiOSアプリ開発者は、長年ある問題を抱えていました。
EAN補助バーコード(+2および+5形式)のスキャン機能です。
このバーコード形式は、コミック本や書籍、一部の食品パッケージに使用されています。
しかし、AppleのSwiftフレームワークもGoogleのKotlinフレームワークも、ネイティブでサポートしていません。
この開発者は何年もAppleとGoogleに機能追加をリクエストしてきました。
しかし、実現しませんでした。
唯一の選択肢は、ZBarという14年前のオープンソースライブラリでした。
Objective-Cと複雑なCコードで構成されています。
エッジ検出やピクセル単位の色解析など、高度な画像処理を行うライブラリです。
動作はしていました。
しかし、深刻な問題を抱えていたのです。
具体的には以下のような状態でした。
- 古いCコードに対する警告が大量に出る
- ビルドを通すために何度もハックを施す必要がある
- オリジナルの作者も認識していた2つのバグが14年間放置されたまま
- プロジェクトはすでに開発停止
Swift 6やSwiftUIへの移行を控える中、このライブラリがいつまでビルドできるか分からない。
そんな状況だったのです。
自力での解決が難しかった理由
なぜ14年間も解決できなかったのでしょうか。
まず、技術的な難易度の問題があります。
バーコードスキャンのコードは、低レベルの画像処理を含む専門性の高い領域です。
エッジ検出アルゴリズムやピクセル操作は、一般的なアプリ開発者の専門外でしょう。
次に、コストの問題です。
同等の機能を持つ商用ライブラリは存在しました。
しかし、ライセンス料は決して安くありません。
小規模ビジネスにとって、この出費は大きな負担となります。
そして、時間の問題もありました。
日々のビジネス運営をしながら、複雑なレガシーコードを一から書き直す余裕はなかったのです。
「ZBarは動いているし、とりあえず問題ない」
この状態が続きました。
技術的負債の典型的なパターンです。
AIモデルへの挑戦と失敗の歴史
LLMが登場してから、この開発者は何度もネイティブのバーコードスキャナー作成を試みました。
GPT-3.5で試みるも失敗。
その後、Claude Sonnet、Claude Opus 4.1、Claude Sonnet 4.5と、新しいモデルが出るたびにチャレンジしました。
しかし、結果はすべて同じでした。
どのモデルも、実用に耐えるコードを生成できなかったのです。
バーコードスキャンという技術領域の特殊性が原因でしょう。
エッジ検出やパターンマッチングの正確な実装には、深い専門知識が求められます。
Opus 4.5による突破
Claude Opus 4.5がリリースされました。
そして、状況は一変したのです。
約12時間のプロンプティングを経て、ZBarライブラリ全体がネイティブSwift 6コードに変換されました。
しかも、ただ動くだけではありません。
14年間放置されていた2つのバグも修正されていたのです。
これは単なる「動くコード」の生成ではありません。
複雑なレガシーコードを理解する。
現代的な言語に変換する。
さらに既存のバグまで特定して修正する。
高度な技術理解と問題解決能力の両方が求められる作業でした。
この事例から学べること
この事例は、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。
AIモデル間の性能差は大きい
同じタスクでも、モデルによって成功と失敗が分かれます。
あるモデルで失敗しても、別のモデルで成功する可能性があるのです。
新しいモデルがリリースされたら、過去に失敗したタスクを再度試す価値があるでしょう。
レガシーコード変換はAIの得意分野になりつつある
古いコードを新しい言語やフレームワークに移行する作業。
これは多くの開発チームが抱える課題です。
AIがこの領域で力を発揮できるなら、技術的負債の解消が加速するかもしれません。
ライブラリビジネスモデルへの影響
この開発者はコードのオープンソース化を検討しています。
その理由が興味深いものでした。
「自分が1日で作れたなら、他の誰かも同じことができる。秘密にしておく意味がない」
コメント欄では、この点について議論が広がっていました。
高額なライセンス料を取るコンポーネントビジネスは、AIの発展により存続が難しくなるかもしれない。
なぜなら、同等の機能をAIの支援で自作できてしまうからです。
プログラマーに求められる変化
この事例は、プログラマーの役割の変化も示唆しています。
コメント欄で、あるユーザーがこう述べていました。
AIがコードを書くとしても、すべての部品を適切な場所に配置するのは人間の仕事だ。 コードを直接書かなくても、システムがどう動いているか、何が何に接続しているかを理解することは重要だ
AIを活用した開発では、コードを一行一行書く能力よりも、全体設計の理解が重要になります。
そして、AIへの適切な指示出しも求められます。
プログラマーの仕事は変化しつつあるのでしょう。
「コードを書く人」から「AIと協働してシステムを構築する人」へと。
試してみる価値はある
もしあなたが長年解決できていない技術課題を抱えているなら、最新のAIモデルで再挑戦してみてください。
以前のモデルで失敗していても、最新モデルなら解決できるかもしれません。
ただし、AIが生成したコードは必ず自分で検証してください。
特に本番環境で使用する場合は、テストを十分に行いましょう。
AIは強力なツールです。
しかし、最終的な品質保証は人間の責任なのです。
まとめ
14年間解決できなかった技術課題が、AIの支援により1日で解決しました。
この事例は、AIによるソフトウェア開発の可能性を示す好例です。
レガシーコードの変換。
技術的負債の解消。
ニッチな技術領域での実装。
これらはAIが得意とする分野になりつつあります。
一方で、AIの能力はモデルによって大きく異なります。
すべてのタスクが成功するわけではありません。
AIを道具として適切に活用しながら、自分自身の技術力も維持・向上させる。
これが、これからの開発者には求められるでしょう。
あなたの「14年越しの課題」は何ですか。
AIの力を借りて、解決の糸口を見つけてみてはいかがでしょうか。
