AIエージェントに「記憶」を持たせる。
言葉にすると簡単ですが、実際にはかなり厄介な課題です。
既存のメモリシステムの多くは、外部インフラに依存しています。
そのうえ、APIコストも発生します。
さらに、蓄積された記憶データがベンダーにロックインされるリスクも抱えています。
こうした問題に対して、Redditで興味深いプロジェクトが紹介されていました。
本記事では、そのプロジェクト「Recursive Memory Harness(RMH)」の仕組みと、従来手法との違いを紹介します。
AIエージェントの記憶が抱える問題
AIエージェントが長期的な記憶を持つには、情報の保存と取り出しの仕組みが不可欠です。
必要なときに、正確な情報を引き出せなければ意味がありません。
従来のメモリシステムでは、ベクトルデータベースやRedis、Qdrantなどの外部インフラを組み合わせるのが一般的でした。
たとえばMem0のようなツールは、情報の取り込み時に大量のLLM呼び出しを行います。
そのため、外部サービスへの依存度が高くなりがちです。
小規模な実験段階なら、これでも問題にはなりにくいかもしれません。
しかし、エージェントが自律的に動き続けるプロダクション環境では話が変わります。
コストとインフラ管理の負担が、無視できなくなってくるのです。
RMHとは何か
RMH(Recursive Memory Harness)は、エージェント向けのメモリハーネスです。
MIT CSAILが2025年に発表した再帰的言語モデル(Recursive Language Models)の研究がベースになっています。
プロジェクトはオープンソースとして公開されており、GitHubリポジトリ(Ori-Mnemos)から誰でもアクセス可能です。
RMHの特徴は、モデルの検索行動に3つの制約を課す点にあります。
1つ目は、情報の検索がナレッジグラフに沿って行われること。
自由に検索するのではなく、構造化されたグラフ上を辿ります。
これにより、検索の精度と一貫性が保たれやすくなっています。
2つ目は、再帰的な深掘りの仕組みです。
初回の検索で十分な結果が得られなかった場合、サブクエリを生成して再検索を行います。
「見つからなかった」で終わらせず、問いを分解して再挑戦する設計です。
3つ目は、検索のたびにグラフ自体が更新されること。
どの情報が使われ、どの情報が使われなかったか。
そのフィードバックがグラフに反映されます。
つまり、使い込むほど検索精度が向上していく構造です。
ベンチマーク結果から見えるもの
Reddit投稿では、RMHとMem0をマルチホップ検索タスクで比較した結果が共有されていました。
まず検索精度について。上位5件の再現率(R@5)は、RMHが90.0%、Mem0が29.0%でした。
F1スコアもRMHが52.3%に対し、Mem0は25.7%。
回答品質を測るLLM-F1では、RMHが41.0%、Mem0が18.8%という結果です。
処理速度の差も顕著でした。
RMHが142秒で完了するタスクに、Mem0は1347秒を要しています。
インフラ面の違いはさらに明確です。
RMHは外部インフラが一切不要で、ローカルで動作します。
情報取り込み時のAPI呼び出しもゼロです。
一方のMem0は、RedisとQdrantが必要になります。
取り込みだけでおよそ500回のLLM呼び出しが発生するとのことでした。
ただし、これはプロジェクト開発者自身が公開したベンチマークです。
第三者による独立検証ではない点には留意してください。
ファイルシステムベースのアプローチ
RMHが採用しているのは、ファイルシステムを基盤としたメモリ管理です。
Redditのコメント欄でも、このアプローチに好意的な反応がありました。
「シンプルな記憶の追加・取得の例をドキュメントに載せてほしい」という要望が寄せられており、開発者もこれに応じて改善を進めている様子です。
外部データベースを使わず、ファイルシステム上で完結する。
この設計は、データの主権(データソブリンティ)という観点でも注目に値します。
記憶データが自分の手元に残り、ベンダーに渡りません。
エージェント同士がナレッジを交換し合う将来を見据えると、この特性はますます重要になるでしょう。
エージェントメモリ分野の広がり
RMHの開発者は、この領域で面白いアプローチが次々と生まれていることにも触れていました。
たとえば、Gitのバージョン管理を検索シグナルとして利用するアイデアです。
従来のRAG(Retrieval-Augmented Generation)の枠を超えた試みが、続々と登場しています。
エージェントの自律性が向上するにつれ、記憶の管理方法は重要なテーマになっていきます。
単に情報を保存するだけではなく、使うたびに賢くなるメモリシステム。
RMHは、その方向性を示す実験的アプローチと言えるのではないでしょうか。
まとめ
RMH(Recursive Memory Harness)は、再帰的な検索とナレッジグラフの動的更新を組み合わせたメモリシステムです。
AIエージェント向けに設計されており、外部インフラなしで動作します。
そして、オープンソースとして公開されています。
ベンチマーク上では、Mem0に対して検索精度・速度・コストのいずれでも優位性を示していました。
ただし、独立した検証はまだこれからの段階です。
エージェントメモリの領域は急速に進化しています。
興味がある方は、GitHubリポジトリを覗いてみてください。
実際にベンチマークを動かしてみるのも良いかもしれません。
壊れた部分を見つけたらフィードバックを送る。
オープンソースの醍醐味は、そういうところにあるはずです。
