海外のRedditで興味深い投稿を見つけました。
FBI交渉人として有名なクリス・ヴォスの交渉術を、AIプロンプトとして活用するというアイデアです。
クリス・ヴォスは「Never Split the Difference(逆転交渉術)」の著者として知られています。
彼の交渉テクニックは、人質解放交渉の現場で培われたものです。
この手法をAIに適用すると、どうなるでしょうか。
日常の交渉シーンで、専門家のようなアドバイスを得られるというのです。
本記事では、この投稿を参考に、交渉術とAIを組み合わせた実践的な活用法を解説します。
1. キャリブレーテッド・クエスチョンの設計
交渉において、直接的な要求は相手の抵抗を生みます。
では、どうすればいいのでしょうか。
代わりに「How」や「What」で始まる質問を投げかけてみてください。
すると、相手は自分で考え始めます。
AIへの指示例を見てみましょう。
上司に予算承認を得たいのですが、相手が自分のアイデアだと思うような質問を5つ考えてください。
このプロンプトを使うと、AIは次のような質問を提案してくれます。
「どうすればこの課題を解決できますか?」
「何があれば前に進めますか?」
自分の立場を主張するのではなく、相手に考えさせる。
この発想の転換が交渉を有利に進める鍵です。
2. 感情のラベリングで緊張を和らげる
相手が怒っているとき、その感情を言語化すると不思議なことが起きます。
「ご不満を感じていらっしゃるようですね」と伝えるだけで、相手の緊張がほぐれるのです。
クライアントがプロジェクトの遅延に怒っている場面を想定してください。
AIに次のように聞いてみましょう。
クライアントが納期遅延に怒っています。 本題に入る前に、相手の感情をラベリングするフレーズを提案してください。
AIは以下のような表現を生成します。
「待たされることへのストレスを感じていらっしゃるようですね」
「期待通りに進まない状況に苛立ちを覚えているのではないでしょうか」
このテクニックには効果があります。
相手が「この人は分かってくれている」と感じるからです。
3. 「その通り」と「あなたの言う通り」の違い
交渉で相手が「あなたの言う通りですね」と言ったとき、実は合意していない可能性があります。
本当の合意は「その通り!」という反応で示されるのです。
この違いは微妙ですが、非常に重要です。
「あなたの言う通り」は単なる同調にすぎません。
一方、「その通り」は相手が心から納得したサインです。
AIに「相手が『その通り』と言うような要約の仕方を教えてください」と聞いてみてください。
相手の主張を正確に反映した言い回しを提案してもらえます。
4. 非難の先回り監査
難しい会話の前に、相手が抱きそうなネガティブな感情をすべて洗い出す手法があります。
クリス・ヴォスはこれを「アキュゼーション・オーディット(非難の監査)」と呼んでいます。
例えば、昇給交渉の前にAIへこう聞いてみましょう。
これから昇給交渉をします。 上司が私に対して抱くかもしれないネガティブな印象をすべて列挙し、それぞれに対する先回りの言葉を考えてください。
すると、次のような前置きを用意できます。
「図々しいと思われるかもしれませんが」
「タイミングが悪いと感じられるかもしれませんが」
こうした準備があると、相手の警戒心を先に解除できます。
この準備があるかないかで、会話の流れは大きく変わるでしょう。
5. 「ノー」を戦略的に引き出す
直感に反するかもしれません。
しかし、相手に「ノー」と言わせることで安心感を与えられます。
なぜでしょうか。
「イエス」を迫られると人は警戒します。
でも、「ノー」と言えると主導権を握っていると感じるからです。
セールスの場面で相手が迷っているとき、AIにこう聞きます。
商談で相手が決断を渋っています。 『ノー』と言わせることで安心感を与えるアプローチを考えてください。
「今決める必要はありません」
「お断りいただいても構いません」
こうしたフレーズが返ってくるでしょう。
逆説的ですが、断る自由を与えることで相手は前向きになります。
6. アッカーマンモデルによる価格交渉
FBI交渉人が使う体系的な価格交渉法があります。
アッカーマンモデルと呼ばれる手法です。
65%、85%、95%、100%という刻みでオファーを上げていきます。
給与交渉を例にとりましょう。
年収700万円を目標に交渉します。 アッカーマンモデルを適用した場合、最初のオファーと各ステップの金額を計算してください。
AIは65%の455万円からスタートするシナリオを提示します。
そこから595万円、665万円と上げていき、最終的に700万円に到達する流れです。
各ステップで使うべき言葉や態度もアドバイスしてもらえます。
そのため、計画的な交渉が可能になります。
7. ミラーリングで情報を引き出す
相手の発言の最後の1〜3語を繰り返すだけで、相手は自然と詳しく説明し始めます。
これがミラーリングというテクニックです。
相手が『予算の問題があって』と言いました。 ミラーリングを使った返答を考えてください。
AIは「予算の問題が?」といったシンプルな返しを提案します。
この短い言葉が効果的なのです。
相手に「もっと説明しなければ」という気持ちを抱かせます。
8. ブラックスワンの発見
交渉には、発見すればゲームチェンジャーとなる隠れた情報が存在します。
クリス・ヴォスはこれを「ブラックスワン」と呼びました。
この商談で、発見できれば状況が一変するような隠れた情報(ブラックスワン)として何が考えられますか?
AIは見落としがちな視点を提示してくれます。
相手に別の選択肢があるか。
内部の予算サイクルはどうか。
決裁者の個人的な事情は何か。
こうした観点です。
実践における注意点
海外のコミュニティでは、これらのテクニックに対して建設的な意見も寄せられています。
ある投稿者は、ヴォスの手法が効果的な理由を指摘しました。
「本質的に共感に基づいているから」だというのです。
テクニックとして使うのではありません。
相手を理解しようとする姿勢が土台にあってこそ機能します。
また、AIの回答をそのまま使うのは避けましょう。
自分の言葉に落とし込む作業が必要です。
機械的な応答は相手に見透かされてしまいます。
まとめ
FBI交渉術とAIの組み合わせは、日常の交渉シーンで大きな力を発揮します。
キャリブレーテッド・クエスチョンで相手に考えさせる。
感情のラベリングで緊張を解く。
戦略的な「ノー」で安心感を与える。
これらのテクニックをAIに設計させれば、交渉の専門家のような準備が可能です。
ただし、これらはあくまでツールにすぎません。
最終的に大切なのは、相手を理解しようとする誠実な姿勢です。
テクニックに頼りすぎず、人間同士のコミュニケーションとしての本質を忘れないようにしましょう。
AIを交渉の壁打ち相手として活用してください。
より良い準備と自信を持って、難しい会話に臨めるはずです。
