「もうChatGPTの回答をまともに読んでいない」
こんな声が、海外のオンラインコミュニティで急増しています。
かつてはAIの回答を一語一句読み込んでいたユーザーたち。
彼らが今では、回答をスクロールして必要な部分だけを拾い読みしている。
何が起きたのでしょうか。
本記事では、Redditに投稿された議論をもとに、ChatGPTが直面している「冗長化問題」の実態を紹介します。
そして、そこからAI活用全般に対して得られる教訓について考えます。
「深呼吸して」と言われても
Reddit上で大きな反響を呼んだ投稿があります。
「ChatGPTの回答を流し読みするようになった」という趣旨のもので、1000以上の賛同票を集めました。
投稿者が問題視しているのは、回答に差し挟まれる定型的なフレーズです。
「深呼吸しましょう」「一歩引いて考えてみましょう」「これは大きな一歩ですね」「あなたは間違っていない」。
こうした表現が、質問の内容に関係なく繰り返し登場するというのです。
2ヶ月前までは回答を全文読んでいた。
それが今では、定型句の山から有用な情報を掘り出す作業に変わった。
投稿者はそう嘆いています。
セラピストになったAI
コメント欄には、似た経験を持つユーザーからの声が殺到しました。
ある人は、胃薬の副作用について質問しただけでした。
それなのに「落ち着いて、パニックにならずに。あなたはとても良い質問をしています」と前置きされたそうです。
また別の人は、掃除機の不具合を相談しました。
すると「深呼吸して。今日は掃除機にメンタルをやられないようにしましょう」と返されたと報告しています。
特に話題になったのは、ビスケットの選び方についての投稿です。
紅茶に合うのはカスタードクリームかバーボンビスケットか。
たったこれだけの質問でした。
しかしChatGPTは、6つのセクションに分かれた長大な「分析レポート」を返したというのです。
感情的な連想、食感のダイナミクス、意思決定フレームワーク。
ここまで展開された回答に、コメント欄は騒然となりました。
「学校のレポートでページ数を水増しするときの書き方と同じだ」という反応は、多くの共感を集めていました。
なぜ問題なのか
この現象の背景には、いくつかの構造的な問題が見えてきます。
まず、情報密度の低下です。
簡単な質問に対して、2ページ相当のエッセイが返ってくる。
6つのセクション、各セクションに導入文と箇条書き、最後にまとめと追加質問のリスト。
ユーザーが本当に必要としていたのは、たった一文の回答だったかもしれません。
次に、文脈を無視したトーンの問題です。
技術的な質問や事実確認に対して、カウンセリングのような語りかけで応答する。
これが繰り返されると、回答全体の信頼性に疑問を持ち始めるでしょう。
あるコメントでは「コーディングの質問をしただけなのに、まるで失恋直後みたいに扱われた」と表現されていました。
さらに、カスタマイズの限界も指摘されています。
パーソナライゼーション設定で「効率的」を選ぶ。
あるいは「冗長な表現を避けて」と指示する。
こうした対策を試みるユーザーは少なくありません。
しかし、多くの報告では設定や指示が持続しないという声が目立ちます。
「冗長な表現をやめて」と指示するとどうなるか。
「分かりました、冗長な表現は避けます。では簡潔にお答えしますね」と前置きした上で、結局同じように冗長な回答を返す。
皮肉なことに、指示を復唱する分だけ回答が長くなるわけです。
ユーザーの「足による投票」
興味深いのは、不満を表明するだけでなく、実際に行動に移すユーザーが増えている点です。
コメント欄には「サブスクリプションを解約した」「Claudeに乗り換えた」「Geminiに移行した」という報告が複数ありました。
あるユーザーは、Claudeに切り替えた理由を語っています。
「回答が簡潔で、余計なお世辞がない」と。
別のユーザーは「ChatGPTが以前そうであったような使い心地をClaudeに感じる」と述べていました。
一方で、問題への対処法を模索するユーザーもいます。
チャットの冒頭に「出力ルール」を貼り付ける方法です。
たとえば、次のようなルールを毎回提示します。
- 動機づけ的なフレーミング禁止
- 回答は5つの箇条書き以内
- 不確かな場合は「不明」と書く
ただ、こうした努力をユーザーに強いること自体が、製品としての問題を物語っているでしょう。
あるコメントは的確に指摘しています。
そこまで手間をかけてChatGPTを使い続ける理由は何か。 常にリダイレクトを必要としないツールに切り替えたほうがいい
AI設計から得られる教訓
この問題は、ChatGPTに限った話ではありません。
AI製品全般が抱える設計上のジレンマを浮き彫りにしています。
「親切さ」と「有用性」は同義ではない。
これが最大のポイントです。
システムプロンプトで「helpful(親切であれ)」と指示されたモデルは、共感的な表現や励ましの言葉を多用する傾向にあります。
しかし、ユーザーが求めていたのは親切さではなく正確さかもしれない。
あるいは、簡潔さだったかもしれません。
回答の長さとコンピューティングコストの関係も見逃せないでしょう。
冗長な回答はトークン消費を増大させます。
ユーザー体験を損なう上に、サーバーリソースも浪費している。
「計算コストが問題だと言うなら、まず無駄なおしゃべりを減らせばいいのに」という指摘もありました。
さらに、ADHDのユーザーからの声は切実でした。
大量の無関係な情報を処理すること自体が苦痛だというのです。
アクセシビリティの観点からも、冗長な回答は深刻な問題を抱えています。
ツール選びの本質
この騒動から、ひとつ明確な教訓を引き出せます。
AIツールは、ユーザーの要求に対して最短距離で回答すべきです。
「モチベーショナルスピーカーの資格を誰が与えたのか」というコメントは冗談めかしています。
しかし、問題の核心を突いている。
道具に求められるのは、使い手の質問に端的に答えることです。
使い手の気持ちを慰めることではありません。
もちろん、温かみのある応答が適切な場面もあります。
メンタルヘルスの相談や、感情的なサポートを明示的に求めるケースです。
重要なのは、文脈に応じた切り替えを正確に行えるかどうかでしょう。
AIツールを選ぶ際のポイントは、派手な機能の有無よりも日常的なやり取りの質にこそ表れます。
毎回の応答が読みやすいか。
無駄がないか。
的を射ているか。
こうした地味な品質の積み重ねが、最終的にはユーザーの信頼と継続利用を左右するのです。
まとめ
ChatGPTの冗長化問題は、AI開発における重要な示唆を含んでいます。
ユーザーは「賢い」AIを求めているのではありません。
「的確な」AIを求めています。
長い回答は賢さの証明にはならない。
むしろ信頼を毀損します。
そして、定型的な励ましの言葉は繰り返されるほどに空虚になっていくのです。
AIツールの価値は、ユーザーの時間をどれだけ節約できるかで測るべきでしょう。
回答を読み飛ばさなければ使えないツールは、その根本的な目的を果たしていません。
この議論が示しているのは、技術的な性能向上だけではAI製品の成功を保証できないという現実です。
ユーザーの期待と実際の応答のギャップをどう埋めるか。
その設計思想こそが、今後のAI市場における勝敗を分ける鍵となるのではないでしょうか。
