「ソフトウェアエンジニアという肩書きは消えていく」
Anthropic社でClaude Codeを開発したBoris Cherny氏が、こう語りました。
Y CombinatorのポッドキャストLightconeでの発言です。
2026年にはAIが「とんでもない」進化を遂げる。
そして、コーディングという行為そのものが根本的に変わるという。
本記事では、この発言の背景を紹介します。
あわせて、Reddit上で巻き起こった現役エンジニアたちの反応も取り上げていきましょう。
Cherny氏は何を語ったのか
Cherny氏の主張はシンプルです。
「コーディングは実質的に解決された」と言い切っています。
自身はすでに2か月以上、手でコードを書いていないとのこと。
小さな修正すら手動では行わないそうです。
さらに踏み込んだ発言もありました。
ソフトウェアエンジニアは今後、コーディングだけでなく仕様書の作成やユーザーとの対話など、より広い役割を担うようになる。
実際にAnthropic社内では、PMもデザイナーもエンジニアリングマネージャーも全員がコードを書いています。
この流れがあらゆる企業に広がっていく、と彼は語りました。
肩書きは「ビルダー」や「プロダクトマネージャー」に置き換わるかもしれません。
あるいは、形骸化した名称として残り続ける可能性もあります。
「エンジニア全員10倍」か「全員クビ」か
この発言に対し、Reddit上で最も支持を集めたコメントが示唆的でした。
業界はこれを『エンジニア全員が10倍の生産性になった』と表現すべきだった。 『エンジニアを全員クビにできる』ではなく
多くの支持を集めたこの投稿は、AI時代の人材戦略における根本的な問いを突いています。
AIを武器にして10倍のスピードで開発を進めるのか。
それとも、人員を10分の1に減らして同じ成果を維持するのか。
あるスタートアップ創業者はこう反論しました。
シリーズAの段階でAIを積極的に使っている。
そして、シリーズBの資金調達ではさらにエンジニアを増やす計画だと。
AIは純粋なアクセラレーターであり、ブレーキとして使う意味がわからない、と語っています。
一方で、別のコメントはこう指摘しています。
CEOはこの手の発言を「生産性そのままでコスト10分の1」と読み替えてしまう。
成長志向の企業はAIで加速する。
しかし、停滞気味の企業はリストラの口実にする。
そんな二極化が進んでいるのです。
自社製品を売るための営業トークでは
懐疑的な声も目立ちます。
あるユーザーは「2023年からずっと同じことを聞いている。あと半年だけ信じてくれ、というやつだ」と皮肉っていました。
Claude Codeの担当者がこう語る理由は明確で、月額200ドルの製品がエンジニアの代替になると証明したいから、というもの。
自分が売っている製品の宣伝を、業界全体の予言のように語る。
その構図を、多くのエンジニアが見抜いています。
そして、最も痛烈なツッコミはこれでしょう。
「この会社、今まさに何十人ものソフトウェアエンジニアを募集しているよね?」という投稿です。
採用ページのURLが添えられていました。
実際にAnthropic社のキャリアページを確認すると、プロダクトエンジニアリングやインフラのソフトウェアエンジニアリング職が複数掲載されています。
エンジニアが不要になると宣言しながら、自社ではエンジニアを大量に採用する。
この矛盾を指摘する声は少なくありませんでした。
ソフトウェアエンジニアリング ≠ コーディング
技術的な観点からの反論も多く見られます。
あるエンジニアはこうコメントしていました。
「プログラマーという肩書きは消えるかもしれない。だが、ソフトウェアエンジニアリングが何なのかを理解していないのは悲しい」と。
この指摘は核心を突いています。
たしかに、AIはコードの生成コストを劇的に下げました。
しかし、ソフトウェアエンジニアリングの仕事はコーディングだけではありません。
システム設計、アーキテクチャの意思決定、セキュリティモデリング、本番環境でのデバッグ、ガバナンスとコンプライアンス対応。
これらはコードを書く行為とは別の領域です。
あるコメントは、グラフ理論を持ち出してこう説明しました。
システムが自動化されると、単純になるのではなく相互接続が増える。
ノードが増えれば、ノード間のやり取りは線形以上に増加する。
つまり、コード生成が安くなれば需要が増え、調整の複雑さはむしろ上昇する、と。
別のエンジニアは自身の実体験を語っていました。
AI導入前は時間の70%をボイラープレートの記述に費やしていたそうです。
残りの30%がアーキテクチャの検討。
今はその比率が逆転し、30%がAI生成コードのレビューで、70%がシステム設計やユーザー対話に変わったとのこと。
エンジニアリングの仕事が消えたのではありません。
一つ上のレイヤーに移動しただけなのです。
「10倍エンジニア」のベースラインは移動する
興味深い議論もありました。
AIを使いこなすエンジニアが10倍の生産性を持つとしましょう。
しかし、全員が使いこなすようになれば、それが新しい「1倍」になります。
今日の10倍エンジニアは、明日の標準的なエンジニアに過ぎません。
ベースラインが上がるだけで、エンジニアという職業が消滅するわけではないのです。
25年のキャリアを持つベテランエンジニアは、AIを「大学を出たばかりのジュニア開発者のチーム」に例えていました。
作業はこなせる。
しかし、手取り足取りの指導が欠かせない。
生産性は向上した部分もあるが、そうでない部分もある。
あくまでツールであり、それ以上でもそれ以下でもない、と。
実際にClaude Codeを使い込んでいるユーザーからは、現場ならではの苦労も語られていました。
Claudeがコンテキストのスイートスポットから外れないよう管理する手間。
明らかなロジックミスを繰り返しロールバックするストレス。
「1週間分のProトークンを食い潰しながら16時間作業して、ようやく10倍エンジニア」という表現には、妙なリアリティがあります。
社会への影響を軽視してはいけない
感情的ながらも、本質を突くコメントもありました。
「数百万ドルを手にした人間が、社会全体にストレスを与えていることを自覚すべきだ」という趣旨のものです。
無能なリーダーたちは、こういう発言を鵜呑みにしてしまう。
AIコーディングツールの開発者が「エンジニアは不要になる」と公言したらどうなるでしょうか。
技術を理解しない経営層が、それを人員削減の根拠にします。
実際の現場を知らないまま意思決定が行われる。
このリスクを、ツールの開発者自身がもっと真剣に受け止めるべきだという意見は根強いものがあります。
あるユーザーの言葉が印象的でした。
「AI企業が世界中から嫌われたくなければ、この変化をポジティブに伝える方法を考えるべきだ」と。
ほとんどの人はAIを、テック系の億万長者をさらに裕福にしつつ自分の仕事を奪う技術だと見ている。
そう指摘していました。
まとめ
Cherny氏の発言には、ポジショントーク的な側面があります。
しかし、それを差し引いても一つの方向性を示していることは事実でしょう。
コーディングの自動化は確実に進んでいます。
そして、エンジニアの役割が変化していることも間違いありません。
ただし、Reddit上のエンジニアたちの反応が教えてくれることがあります。
「コーディングの解決」と「ソフトウェアエンジニアリングの解決」は、まったく別の話だということです。
コードを生成するコストが下がれば、システムの複雑さはむしろ増します。
その複雑さを管理するのは、依然として人間のエンジニアでしょう。
AIをアクセラレーターとして活かす企業が勝つ。
コスト削減の道具としか見ない企業は、競争力を失う。
この構図は、エンジニアだけでなく経営層にとっても見逃せないものです。
