AIコーディングツールの競争が激化しています。
そんな中、Anthropicが大きな一手を打ちました。
JavaScriptランタイム「Bun」の買収です。
同時に、Claude Codeがわずか6ヶ月で年間売上10億ドルを達成したとも発表しています。
この動きは、AI業界の今後を占う重要なシグナルかもしれません。
本記事では、海外のテック系掲示板での議論をもとに、この買収の意味を考察します。
Bunとは何か
Bunは、Node.jsに代わる高速なJavaScriptランタイムです。
注目を集めてきたプロジェクトで、Zig言語で書かれています。
従来のNode.jsと比較して、起動速度やパフォーマンスに優位性があるのが特徴です。
開発者コミュニティでは「お気に入りのJSランタイム」と呼ぶ人も多く、着実にファンを増やしていました。
オープンソースプロジェクトとして成長してきました。
しかし、VCからの資金調達を受けたスタートアップという側面も持っていたのです。
なぜAnthropicはBunを買収したのか
海外掲示板では皮肉なコメントが飛び交いました。
「なぜClaudeで自分たちのランタイムを作れなかったのか」と。
AIがコードを書く時代です。
それなのに、AI企業が人間のチームごと買収するというのは、たしかに興味深い構図でしょう。
しかし、冷静に考えると買収には明確な理由があります。
最も大きな要因は、時間の節約です。
AI企業は短いタイムラインで動いています。
新規採用した人材がスキルアップし、独自実装を一から作り上げるのを待つ余裕はありません。
Bunの開発には約1,540日が費やされました。
この時間は、たとえAIを使っても簡単には埋められないのです。
既存のマーケットシェアと開発コミュニティの獲得も重要でした。
ゼロから作ったランタイムには、ユーザーもドキュメントもエコシステムもありません。
Bunにはすでにそれらが揃っていたわけです。
さらに、このプロジェクトに情熱を持ったスキルの高い開発者を獲得できます。
人材獲得を目的とした「アクハイヤー」の側面があるのは間違いないでしょう。
Claude Codeとの技術的な関係
Anthropicは以前からClaude CodeのインフラにBunを使用していました。
2024年10月には、cli.jsでの配布からBunでバンドルした形式に切り替えています。
この移行の主な目的は信頼性の向上でした。
ユーザーのマシンにインストールされているNode.jsのバージョンに依存しなくなります。
自社でランタイムを同梱することで、動作環境の一貫性を担保できるようになったのです。
あるエンジニアは、将来的な方向性について興味深い推測をしています。
サンドボックス環境でのTypeScript実行プラットフォームを構築しているのではないか、と。
コードを書いて実行することが、AIエージェントの本質的な機能になる世界を見据えているのかもしれません。
ちなみに、起動時間の短縮効果は確かにあります。
しかし、それだけでは買収の説明になりません。
LLMのレスポンスを待つ6秒間に比べれば、Node.jsとBunの実行時間差は誤差の範囲だからです。
業界への影響
Bunファンにとって、この買収は良いニュースと言えそうです。
VCの資金を受けた小規模スタートアップは、どこかで収益化のプレッシャーに直面します。
その結果、プロダクトの質が低下する「enshitification」への道をたどるケースは少なくありません。
Anthropicという成長企業の傘下に入ることで、Bunはその運命を回避できる可能性があります。
AnthropicはBun単体での収益化を急ぐ必要がありません。
Claude Codeを改善するために使えれば、それで十分なリターンを得られます。
Win-Winの関係が成立しているのです。
一方で、Zigコミュニティにとっても朗報かもしれません。
BunはZig言語で書かれています。
そのため、Anthropicという大企業がZigのコードベースを維持・発展させていくことになります。
これがZig言語へのサポート拡大につながると期待する声も上がっていました。
「OpenAIはDenoを買収すべきだ」という冗談交じりのコメントもありました。
JavaScriptランタイムをめぐるAI企業の争奪戦は、今後も続くのでしょうか。
AIはソフトウェアエンジニアリングを終わらせるのか
こんな指摘もありました。
「Anthropicは6ヶ月でソフトウェアエンジニアリングが終わると言っていなかったか」と。
AIコーディングツールを販売する企業が、人間のエンジニアチームを丸ごと買収する。
この行動は、その主張と矛盾しているように見えます。
ただし、この発言は一人の社員の意見であり、会社としての公式見解ではないようです。
しかも、その人物は15年間マネジメントやCレベルのポジションにいた人でした。
現役のエンジニアではなかったという指摘もあります。
現実には、複雑なソフトウェアの開発と保守には依然として人間の専門知識が不可欠です。
AIはツールとして強力ですが、すべてを置き換えるわけではありません。
まとめ
AnthropicによるBun買収は、単なるランタイムの獲得ではありません。
AIコーディングプラットフォームとしての基盤強化を意味しています。
Claude Codeの10億ドル達成という実績は、AIコーディングツール市場の急成長を示しています。
この市場で勝ち残るためには、優れたモデルだけでは足りません。
それを支える技術インフラも重要になってくるでしょう。
Bunのユーザーにとっては、プロジェクトの存続と発展が約束された形になりました。
オープンソースコミュニティとしては、大企業の買収という出来事をどう受け止めるか。
意見が分かれるところかもしれません。
AI企業がインフラ層にまで投資を広げる動きは、今後も加速していきそうです。
次はどの企業が、どんなプロジェクトを買収するのでしょうか。
