最近、海外の掲示板で興味深い議論を目にしました。
あるユーザーがカラフルな鳥の動画を探していたそうです。
ところが、検索結果がAI生成のフェイク画像で埋め尽くされていました。
異常に彩度が高い鳥。
変異したような翼を持つ鳥。
そもそも存在しない架空の鳥。
本物の映像を見つけるために、大量のゴミコンテンツをかき分けなければならなかったと言います。
この投稿は多くの共感を集めました。
同様の経験を持つ人が予想以上に多かったからです。
プロのクリエイターからは「有料のストックフォトサービスでさえAI生成画像が紛れ込んでいる」という声も上がっていました。
「デッド・インターネット」という概念
「デッド・インターネット」とは、インターネット上のコンテンツの大半がボットやAIによって生成されているという仮説です。
かつては陰謀論として扱われていました。
しかし、生成AIの普及により、この概念は急速に現実味を帯びてきています。
問題の本質は、本物のコンテンツが消えたわけではないという点にあります。
単に埋もれているだけなのです。
ある海外ユーザーはこう表現していました。
「インターネットを失いつつあるのではない。シグナルとノイズの比率を失いつつあるのだ」と。
検索エンジンは便利なものを上位に表示するはずでした。
ところが現実には、大量生産しやすく広告収入を得やすいコンテンツが優先されるようになっています。
2023年という分水嶺
多くのユーザーが共通して指摘するのが「2023年」という境界線です。
ChatGPTの一般公開が2022年11月でした。
画像生成AIの急速な進化も同時期に起こっています。
その結果、2023年以降のインターネットは、それ以前とは質的に異なるものになったと感じる人が増えているのです。
ある海外ユーザーは興味深い比喩を持ち出しました。
第二次世界大戦以前に製造された鉄鋼は、核実験による放射能汚染を受けていないそうです。
そのため、科学実験において非常に価値があると。
科学者たちは沈没した戦艦からわざわざ鉄鋼を回収することがあるようです。
2023年以前のインターネットコンテンツも、同じような意味で「汚染されていない」貴重なアーカイブになりつつあるのかもしれません。
本物を見つけるための実践的テクニック
海外の掲示板では、さまざまな対処法が共有されていました。
すぐに試せるものを紹介します。
検索期間を限定する
最もシンプルで効果的な方法です。
Googleの検索ボックスに「before:2023」と入力するだけ。
これで2023年以前のコンテンツだけが表示されます。
もちろん、この方法には明らかな限界があります。
2023年以降の出来事やニュースには対応できません。
ただ、普遍的な情報を探す場合には十分に機能するでしょう。
専門サイトを直接利用する
鳥を探しているなら、一般的な検索エンジンではなくオーデュボン協会のサイトへ行く。
火山の映像が欲しいなら、地質調査機関のサイトを探す。
手間はかかりますが、信頼性は格段に上がります。
AI検出機能を持つ検索エンジン
Kagiという有料検索エンジンには、AI画像をフィルタリングする機能があるそうです。
AI画像のみを表示する設定と、AI画像を除外する設定を切り替えられます。
両者を比較した画像が共有されていましたが、その差は歴然としていました。
ブラウザ拡張機能
「Slop Evader」というブラウザ拡張機能も話題に上がっていました。
「2022年のようにウェブを閲覧しよう」というコンセプトです。
AI生成コンテンツが普及する前の時代を模擬した検索結果を表示してくれるようです。
インターネットアーカイブの活用
Wayback Machineの重要性を強調する声も多くありました。
あるユーザーは「人類が持つ真の人間表現の最後の貴重なアーカイブになるかもしれない」と述べていたほどです。
分散化への取り組みが進んでいることにも言及がありました。
自分だけのアーカイブを構築する
ある海外ユーザーは「旧世界のデータを収集する」ことを趣味にしていると述べていました。
将来アクセスできなくなる可能性のある文書、映像、画像を今のうちにダウンロードしておくというのです。
これは決して大げさな話ではありません。
過去にはGeocitiesの閉鎖で大量のコンテンツが失われました。
個人にとって「第二のアレクサンドリア図書館の焼失」と感じた人もいたようです。
データホーダー(大量のデータを収集・保存する人々)のコミュニティでは、アーカイブのテクニックが共有されています。
ディスクスペースの問題はあります。
しかし、自分にとって重要なコンテンツを手元に残しておくことは、今後ますます価値を持つかもしれません。
AIが自らを食べる問題
議論の中で繰り返し登場したのが「フィードバックループ」の問題です。
AIモデルは人間が作成したコンテンツを学習して訓練されました。
しかし今、インターネット上にはAI生成コンテンツが急増しています。
では、次世代のAIモデルがAI生成コンテンツを学習するとどうなるか。
コピーのコピーのコピー。
品質は劣化していくしかありません。
ある海外ユーザーは「遺伝子プールが小さすぎて種が崩壊するのと同じ問題だ」と表現していました。
この問題は単にAIの性能だけに影響するわけではありません。
インターネット全体の情報品質にも波及する可能性があります。
未来への希望と現実的な対応
悲観的な意見ばかりではありませんでした。
「このような状況は必ず均衡点に達する」という見方もあります。
人々がフェイクコンテンツに飽きれば、注目もお金も集まらなくなる。
そうなれば、本当のアーティストだけが残るかもしれないと。
「本物」への需要が高まることで、写真家やビデオグラファーへの仕事が増える可能性も指摘されていました。
AI以外のコンテンツを保証するサービスやプラットフォームが登場するかもしれません。
一方で、身分証明なしでは人間であることを証明できなくなる未来を懸念する声もあります。
匿名のインターネットは死に、デジタルIDの開示なしにはオンライン活動ができなくなる世界。
その賛否はともかく、そのような方向への圧力は確実に高まっていくでしょう。
まとめ
AI生成コンテンツの氾濫は、インターネットの使い方を根本から見直すきっかけになっています。
かつては検索ボックスにキーワードを入れれば望む情報が得られました。
しかし今は、検索リテラシーそのものをアップデートする必要があります。
現時点で実行可能なアプローチをまとめると、以下のようになります。
- 検索期間の限定(before:2023など)
- 専門サイトの直接利用
- AI検出機能を持つ検索エンジンの活用
- 自分だけのオフラインアーカイブの構築
これらは対症療法かもしれません。
それでも、今すぐ試せる現実的な手段です。
議論の中で印象的だったコメントがあります。
これはインターネットが死んだのではなく、企業化されたインターネットが自壊しただけだ。 密接なコミュニティと人間のつながりは、ソーシャルメディアが役に立たなくなった今、むしろ繁栄するだろう
テクノロジーの進化によって生まれた問題。
それがまたテクノロジーとコミュニティの力で解決されていく。
その過程を今、私たちは目撃しているのかもしれません。
