「AIツールを組み合わせたら、30万ドルのコンサルティング案件を3,000円で再現できた」
こんな投稿がRedditに上がりました。
そして、大きな議論を呼んでいます。
投稿者はWebスクレイピングツールとClaudeを組み合わせたそうです。
それで40ページの市場分析レポートを作成し、マッキンゼーのコンサルタントはもう不要だと主張しました。
結論から言えば、コミュニティの反応は圧倒的に「No」でした。
しかも、その反論の中身が非常に興味深いのです。
コンサルティングという仕事の本質を浮き彫りにしています。
本記事では、この議論から見えてきた「AIとコンサルティングの関係」について考察します。
コンサルティングファームが売っているのは「リサーチ」ではない
最も多くの支持を集めたコメントは、こう指摘していました。
マッキンゼーが売っているのはリサーチではありません。
「責任の盾」と「スケープゴート」なのだと。
どういうことでしょうか。
企業の経営陣が大きな意思決定を行うとき、リスクが伴います。
たとえば、リストラを断行する場面を想像してください。
経営陣が自らの判断として発表すれば、すべての責任を負うことになります。
ここでコンサルティングファームの出番です。
マッキンゼーという名前を盾にすれば、話が変わってきます。
意思決定がうまくいけば、経営陣の功績になる。
失敗すれば、コンサルタントに責任を転嫁できる。
年間5,000億ドル規模のコンサルティング業界が存続している理由の一つは、まさにこの構造にあるのです。
あるコメントが的確に表現していました。
「マッキンゼーが間違えたら、マッキンゼーがクビになる。でも、Claudeが間違えたら、自分がクビになる」と。
AIが代替したのは「最も価値の低い部分」にすぎない
投稿者が自動化したのは、公開Webサイト12件からのデータ収集です。
そして、その情報をもとにレポートを生成しました。
しかし実際のところ、これはコンサルティング業務のごく一部にすぎません。
それも、最も価値の低い部分です。
大手コンサルティングファームには、公開情報以外の独自資産があります。
過去の膨大な案件から蓄積されたデータベース。
競合企業の戦略に関する非公開情報。
業界のキーパーソンへのインタビューネットワーク。
これらはWebをクロールしても手に入りません。
そして、コンサルタントの本質的な仕事は、データ収集のさらに先にあります。
社内政治をナビゲートしながら組織の合意形成を進める。
ステークホルダー間の利害を調整する。経営幹部が意思決定に踏み切れるよう支援する。
この部分をAIが代替するのは、現時点では不可能でしょう。
「自分の仕事を自動化できた。だから他人の仕事も自動化できる」という錯覚
この議論で繰り返し指摘されていたのが、ある種の認知バイアスです。
あるソフトウェアエンジニアのコメントが印象に残りました。
AIコーディングアシスタントを使いこなせるのは、ソフトウェアエンジニアリングを深く理解しているからだ、と。
出力の品質を判断できる。
間違いを修正できる。
適切な方向に導ける。
これらは専門知識があって初めて可能になります。
その知識がなければ、AIの出力をそのまま使うしかありません。
そして、それは極めて危険です。
コンサルティングでも同じ構図が成り立ちます。
30万ドルの案件と同等の品質かどうか判断するには、30万ドルの案件を知っていなければなりません。
投稿者がレポートの中身を公開しなかった点を、多くのコメントが突いていました。
納得がいく話です。
コンサルティングファーム自身がAIを取り込んでいる
見落とされがちな事実があります。
マッキンゼーをはじめとする大手ファームは、すでにAIツールを業務に組み込んでいるのです。
ある競合ファームのコンサルタントは、こうコメントしていました。
業務のあらゆる側面にAIを導入済みだと。
考えてみれば、AIの恩恵を最も受けるのは大手ファームの方かもしれません。
ジュニアアナリストが行っていたリサーチやデータ整理をAIが担う。
そのぶん、コンサルタントはより付加価値の高い業務に集中できるようになります。
つまり、AIはコンサルティングファームを駆逐するのではありません。
彼らの利益率を高める方向に作用する可能性が高いのです。
同じ品質のアウトプットを、より少ない人員で、より短い期間で提供する。
その差額が利益になります。
とはいえ、コンサルティング業界への正当な批判もある
一方で、業界への批判的なコメントにも一理ありました。
あるコメントは実体験を共有していました。
マッキンゼーが納品したPythonスクリプトを、Claudeで20分で再現できたと。
コンサルタントの成果物がすべて高品質とは限りません。
実際には、その業界の経験すらないジュニアが大半の作業をこなしているケースもあるのです。
別のコメントも興味深いものでした。
大手ファームから受け取った市場分析レポートについて、こう証言しています。
「長くて見栄えは良いが、内容は間違いだらけだった」と。
しかもそのレポートは実際の投資判断に使われ、買収にまで発展しています。
コンサルティングの価値は、常にその中身にあるわけではありません。
ブランドネームがもたらす社内政治的な安全性にこそ、対価が支払われている場面も多いのです。
AIが本当に変えるもの
この議論から浮かび上がる本質的な問いがあります。
AIはコンサルティングを代替するのか。
答えは「部分的にはイエス、全体としてはノー」です。
AIが代替しうる部分は明確に存在します。
公開データの収集と整理。
定型的な分析フレームワークの適用。
レポートのドラフト作成。
これらはAIの得意分野であり、従来のジュニアアナリストの業務と重なります。
一方で、代替が困難な部分もはっきりしています。
社内政治のナビゲーション。
経営幹部との信頼関係構築。
非公開情報へのアクセス。
そして何より、「責任を引き受ける」という機能です。
これらは人間にしか果たせません。
実際に、AIで自社の税務コンサルティング業務を効率化したというコメントもありました。
年間120万ユーロのコスト削減を実現したそうです。
このコメントが示唆するのは、AIの真価がコンサルタントの「代替」にはないということでしょう。
専門家の生産性を「増幅」するところにこそ、本当の価値があるのです。
まとめ
「AIでマッキンゼーを代替した」という主張は、コンサルティングの一面しか見ていません。
データ収集とレポート生成だけが仕事だと思えば、たしかに代替できたように見えます。
しかし、それは全体のほんの一部にすぎないのです。
興味深いのは、この投稿自体への疑惑です。
コミュニティからは、スクレイピングツールの広告ではないかという指摘が出ていました。
投稿者のユーザー名に「Ad(広告)」が含まれています。
そして、投稿は最終的に削除されました。
AIの力を過大評価すること。
過小評価すること。
どちらも正確な判断を妨げます。
専門知識を持つ人間がAIを道具として使いこなしたとき、最も大きな価値が生まれるのです。
逆に、専門知識なしにAIの出力を鵜呑みにすれば、それは洗練されたゴミになりかねません。
あるコメントが端的にまとめていました。
「ゴミを入れれば、とても立派なゴミが出てくる」と。
