LLM時代のログ解析術:98%のノイズを除去するCordonの仕組み

LLM時代のログ解析術:98%のノイズを除去するCordonの仕組み サーバー

大規模システムの障害解析で、膨大なログファイルと格闘した経験はありませんか?

Kubernetesクラスタがダウンしたとき、何百万行ものログから原因を特定する作業は気が遠くなります。
grepでキーワード検索しても、見つけたいものが何か分からないと見逃してしまう。
かといってLLMに丸投げしようとすると、コンテキストウィンドウの制限に引っかかります。

この問題に対するアプローチとして、Cordonというツールが注目を集めています。
本記事では、Redditで共有された情報をもとに、このツールの仕組みと可能性について解説します。

従来のログ解析が抱える限界

システム障害を調査するとき、多くのエンジニアはgrepやELK、Splunkなどのツールを使います。
これらは非常に強力です。

しかし、根本的な制約があります。
それは、キーワードマッチングに依存しているという点です。

「error」で検索すれば、errorという文字列を含む行がヒットします。
しかし、本当に調べたいのは「いつもと違う何か」ではないでしょうか。

予期しない状態遷移や見慣れないパターン。
そういったものこそが障害の原因であることが多いのです。

統計的なツールはエラーの発生頻度をカウントしてくれます。
でも、同じエラーが1000回出ていれば、それぞれを等しく扱ってしまいます。
本当に注目すべきは、その1000回の中に埋もれた「いつもとは違う1回」かもしれません。

Cordonのアプローチ:意味的な異常検出

Cordonは全く異なる発想でログを処理します。

このツールは、Transformerエンベディングとk-NN密度スコアリングを組み合わせた手法を採用しています。
ログの各セクションをベクトル空間に変換し、他のログとの「距離」を計算するのです。

処理の流れを説明しましょう。
まず、ログファイルを適切な単位に分割します。

次に、各セクションをTransformerモデルでベクトル化します。
そして、各ベクトルについて最近傍のベクトルとの距離を計算し、スコアを算出します。

このスコアが低いほど、そのログセクションは「普通」ということになります。
周囲に似たようなログがたくさんあるからです。
逆にスコアが高ければ、他に似たものがない「異常」なログだと判断できます。

重要なのは、同じエラーメッセージが繰り返し出現しても、それは「よくあること」として背景ノイズに分類される点です。
本当に異常なのは、普段見かけないパターンなのです。

実際のパフォーマンス

開発者の報告によると、100万行のHDFSログに対して2%のしきい値で処理した結果、98%のトークン削減を達成したとのことです。

98%という数字の意味を考えてみてください。
100万行のログが、意味的に重要な部分だけに絞られて2万行程度になる。
これならLLMのコンテキストウィンドウにも余裕で収まります。

しきい値は調整可能です。
2%は積極的なフィルタリングですが、5〜10%に設定すればより多くの情報を残せます。

どの程度攻めるかは、ユースケース次第でしょう。

教師なし学習のトレードオフ

Redditのコメントで興味深い議論がありました。

教師なし学習であるため、専門家の知識をどう反映するかという問題です。
セマンティックに珍しい部分が検出されたとします。
しかし、それが本当に重要なのか、単なる無害なエッジケースなのかは分かりません。

この問題について、開発者はRAGとの組み合わせを提案しています。
Cordonでログを前処理し、ドメイン知識を持ったLLMに渡すという運用です。

Cordonは軽量でシンプルなツールとして設計されています。
そのため、他のツールと組み合わせて使うことを想定しているようです。

また、繰り返し発生するエラーがすべて除外されることへの懸念も出ていました。
同じエラーが5万回出ているとき、そのエラー自体が問題の症状かもしれません。
これについては、しきい値の調整で対応できます。

さらに開発者は、Cordonのスコアリング後に直近の20行程度を追加で保持する手法も試しているそうです。
ログがどんな状態で終わったかを把握するためです。

従来ツールとの違い

grepやELKは「何を探すか知っている」ときに威力を発揮します。

パターンを定義し、そのパターンに一致するものを見つける。
これが従来のアプローチです。

Cordonは逆のアプローチを取ります。
「何が普通か」をログ自身から学習し、普通でないものを浮かび上がらせる。
パターンの事前定義は不要です。

この違いは、未知の障害を調査するときに大きな意味を持ちます。
何を探せばいいか分からない状況で、まずCordonで「いつもと違う部分」を抽出する。

そこからLLMや従来ツールで詳細を調べていく。
そんな使い方ができるでしょう。

想定される活用シーン

このツールは本番環境での利用を想定して開発されています。
SREやDevOpsエンジニアが大規模な障害調査を行うとき、まずログを前処理してノイズを除去できます。

LLMを使った解析の前処理としても有用です。
コンテキストウィンドウに収まるサイズまで圧縮できるからです。

PyPIで公開されており、CLIとPython APIの両方が利用可能です。
テストとベンチマークも整備されているとのこと。

pip install cordon

GitHub、PyPI、Hugging Face Spacesでデモも公開されています。
技術的な詳細はRed Hatのデベロッパーサイトに解説記事があります。

まとめ

Cordonは、ログ分析に新しい視点をもたらすツールです。
キーワードマッチングではなく、セマンティックな意味での異常検出というアプローチは、特にLLMを活用したログ解析のパイプラインで有用でしょう。

もちろん、これは万能薬ではありません。
教師なし学習の限界は存在します。

また、ドメイン知識を持った人間やシステムとの組み合わせも必要です。
しかし、膨大なログから「いつもと違う何か」を抽出するという課題に対して、有効なアプローチを提供しています。

大規模システムの運用に携わっているなら、試してみる価値はあるのではないでしょうか。

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