AIに質問すれば、答えは返ってきます。
でも、その答えには余計な前置きが多い。
当たり障りのない言い回しも目立ちませんか。
「念のため申し上げますと」という枕詞。
「おっしゃる通りです」という相づち。
同じ意味の形容詞を三つ並べる癖。
読み手からすると、本題にたどり着くまでが長いのです。
海外の掲示板Redditで、この問題に正面から取り組むシステムプロンプトが共有されていました。
投稿者は半分冗談で、これを自分の「ドイツ流プロンプト」と呼んでいます。
今回は、その中身と背景にある考え方を紹介します。
なぜ「ドイツ流」と名づけたのか
投稿者はドイツ出身です。
そして、このプロンプトを使うと出力がドイツ流コミュニケーションのイメージそのものになると語っています。
率直で、淡々としていて、世間話がない。
すぐ本題に入る。
自信たっぷりに推測で答えることもしません。
むしろ、不確かなときは「不確かだ」とはっきり伝える。
そういう文体です。
ドイツ人の同僚に文章を見せたら「この一文は何も言っていない、消せ」と返された。
そんな経験があるなら、雰囲気は伝わるはず。
もともとのプロンプトはドイツ語で書かれていました。
ドイツ語の出力向けに調整されたものです。
投稿者はそれを英語に翻訳しました。
さらに、ドイツ語特有の文法ルールを英語の文体ルールに置き換えたバージョンも公開しています。
このプロンプトが目指すもの
狙いはシンプルです。
明確で正確な回答を引き出すこと。
そして、事実の捏造、過剰なぼかし、おべっか、ありがちな埋め草を取り除くこと。
ルールには優先順位がつけられています。
いちばん上が安全性。
次に事実の正確さ。
その下に分かりやすさ。
ただし、情報が失われない限り簡略化してかまわない、という設計になっています。
中身は、いくつかの「対策項目」に分かれます。
順に見ていきましょう。
捏造とぼかしを止める
ひとつめは、事実の捏造を防ぐルールです。
対象になるのは事実の主張であって、意見や評価ではありません。
たとえば価格、ソフトのバージョン、法律、市場シェア、人事。
こうした時間とともに変わる事柄については、不確かだと明示させます。
一方で、数学や物理の定数、基本的な地理データ、歴史上の確定した年号などは別です。
これらは、いちいち警告する必要はないとしています。
情報源が矛盾するときは「対立がある」と示させます。
また、前提を反転させると結論がひっくり返るような仮定は、その前提を明示的に名指しさせる。
ここまで細かく場合分けしているのが特徴です。
ふたつめは、ぼかしへの対策です。
数値は基本的に幅や桁で答えさせます。
一点の値で答えてよいのは、定数や個数、日付のように、そもそもばらつきが存在しない場合だけ。
ここで鋭いのが、ばらつきが「不明」なのと「ない」のは別物だ、という指摘です。
そして、根拠を示せない主張は最初から落とす。
もっともらしさは根拠ではない、と言い切っています。
おべっかと無駄な前置を排除する
三つめは、おべっか対策です。
確認や謝罪の決まり文句を禁じます。
理由のない弱め言葉も認めません。
たとえば「最適ではないかもしれません」と濁すのはNG。
代わりに「間違いです、なぜなら…」と理由つきで言い切らせます。
そして、ユーザーの意見には流されない。
新しい論拠が出てきたときだけ立場を改める。
そう定めています。
四つめは、無駄な前置の排除です。
すべての段落や箇条書きは、核心への答えを一歩進めるものでなければならない。
背景説明を入れてよいのは、それがないと論理の一歩が抜け落ちるときだけ。
「さらに」「加えて」といったつなぎの常套句も使わせません。
中立のふりと、無関係な情報
五つめは、にせの中立を避けるルールです。
すでに決着がついている問いには、決着した結論をそのまま述べる。
専門家の間でまだ議論が続いている問いなら、両方の立場を並べる。
つまり、何でも「賛否両論あります」で逃げる態度を封じるわけです。
六つめは、無関係な情報の排除です。
複数の論点を答えるときは、重要な順に並べます。
重要さの基準は、読み手の判断にどれだけ役立つか。
純粋な知識を問う質問なら、核心の主張にどれだけ寄与するか。
そして、判断が絡む質問では判断材料を先に置きます。
文体そのものへの注文
対策項目に加えて、文章の書き方についても細かい指定があります。
まず、名詞化を避けて動詞で書く。
「検討を行う」ではなく「検討する」。
一文にひとつの考えだけを入れる。
形容詞は二つまでに減らし、意味の重なる語は切り捨てる。
「速くて効率的で信頼できる」と三つ並べるくらいなら、「低遅延で信頼できる」とまとめてしまう。
さらに、文章で使ってはいけない表現がいくつか並びます。
- エムダッシュ(—)。短い挿入なら読点、長い挿入なら別の文か括弧、説明や帰結ならコロンで代える
- セミコロン。主節は文を分けて切る
- 「XではなくY」型の対比のテンプレート
- 「Xは現実だ」「Xは実際に問題だ」といった、わざわざ現実だと強調する言い回し
- 「念のため言っておくと」のような、本題に入る前の咳払いめいた前置き
- 「このことが示すのは」「だからこそ」のような、自分で結論を解説してしまう言い方
最後のふたつは、日本語の文章でもよく見かけるはず。
前置きと自己解説を削るだけで、文章はかなり引き締まります。
コメント欄での反応
この投稿には、当のドイツ人からの反応もついていました。
ある人いわく、このプロンプトは要するに「がんばっている感を出すのをやめろ」とモデルに指示しているだけだ、と。
半ば笑い混じりのコメントです。
特にエムダッシュについては、一度気づくと二度と見過ごせなくなる、と言います。
本来なら読点や句点で静かに区切れる場所。
そこに、あの小さなダッシュが紙吹雪みたいに撒かれている。
言われてみれば、確かにそうなんですよね。
別の人は、ドイツ人の気質が世界有数のエンジニアを生んでいる、と冗談まじりにコメントしていました。
文章を削ぎ落とす発想と、無駄のない設計を好む文化。
この二つは、どこかでつながっているのかもしれません。
ここから学べること
このプロンプトのおもしろさは、AIの「らしさ」を逆向きに定義している点にあります。
私たちが何となく感じる「いかにもAIが書いた文章」。
これには共通のパターンがあります。
やたら丁寧な前置き。
当たり障りのない両論併記。
意味の薄い形容詞の連打。
投稿者は、それを一つひとつ言語化しました。
そして、禁止リストに落とし込んだのです。
このリストは、そのまま人間の文章術としても読めます。
前置きを削る。
一文を短くする。
根拠のない言い切りを避ける。
形容詞を重ねない。
AIへの指示というより、読みやすい文章の原則そのものです。
まとめ
AIの回答が冗長に感じるのは、AIの能力不足ではありません。
指示が曖昧だからです。
「良い感じに答えて」とだけ頼めば、無難で当たり障りのない文章が返ってきます。
Redditで共有された「ドイツ流プロンプト」は、その曖昧さを徹底的に埋めた一例です。
何を禁じ、どう書かせたいか。
これでもかと細かく指定しています。
もちろん、全部をそのまま真似する必要はありません。
気になった項目を一つか二つ、自分のプロンプトに足してみる。
それだけでも、返ってくる文章の手触りは変わるはず。
まずは「前置きを書くな」の一行から試してみてはいかがでしょうか。
